コーヒーのカップを手にして、公園のベンチに座った。川からの風が気持ちが良く、ところどころにある街頭が穏やかな雰囲気を演出している。

 空を見上げる。星はほとんど見えない。

「長野の星の数と、大分違うな」

 気付けば彼も空を見上げていた。

「そうですね。いつも、同じように輝いているんでしょうけど、見る人の場所や状況によって、輝き方が変わって見えてしまいますね」

「そうだな…… あまり、星など見る事も無かったが」

「私は、時々ぼーっと見てますけど…… ところで、お家は何処なんですか?」

「あれだ」

 彼が、指さした。
 どれだ?
 公園と反対側に、数件の大きな住宅が並んでいる。高級住宅街のようだが。


「あれとは?」

「角から、二番目の家だ」

「ええーー。実家ですか? 何人で住んでるんですか?」

 立ち並ぶ中でも、一番大きそうで、ここからでは大きな門しか見えない。

「一人だが」


「そうですか…… では、そろそろ帰ります」

 私はベンチから立ち上がった。見てはいけなかった物を見てしまった気がする。


「そうだな…… もう、遅いし……」
 
「おやすみなさい」

 ペコリと頭を下げて、車の方へと向かった。

「ああ…… おやすみ」


 本当によく分からない人だ。社長だから、あんな大きな家に住んでいても不思議はない。どちらにしても、住む世界が違うな。