その星、輝きません!

「はい。どうぞ」

「あの…… 笑わない人間というのは、病気なのでしょうか?」

 真っすぐにこちらを見る彼に、始めて目が合った気がした。

 小さく息を整える。

「笑わない事自体が病気であるわけではないと思います。ただ、笑えなくなってしまっているとしたら、精神的な病気の症状の一つとして考えられるかもしれません。もう一つ、笑っているからと言って楽しいとは限りませんし、笑わないからと言って楽しくないとも限りません。大事なのは、楽しいと思えているかではないでしょうか?」

「うーん」

 彼は少し何か考えている様子だった。


「笑う事が少ないのですか?」

「まあ…… 今朝、久しぶりに笑ったもので、少し気になりました」


「そうですか。笑ったのなら良かったのでは…… 自然に笑えたのなら、もっと良い事だと思いますが……」


 そう答えたものの、まさか今朝のシャッター事件が面白かったわけじゃないよね? こんな高級感溢れる人が、あんな馬鹿みたいな事で笑えるとも思えない。


「そうですね。参考になりました」


「とんでもない。そろそろお時間なので…… 」


 私は、フャイルを閉じて立ち上がった。


「では、明日の予約をお願いします」

「はい?」

 首を傾げて、状況を確認する。
 この男は、何を言っているのだろうか?


「明日の予約です。時間外でもプラス料金かかっても構いません」

 いやいや、こっちが構います。


「いえ、そういう事ではなく。連日カウンセリングを受けられても効果はあまりありません。それに、継続のカウンセリングが必要とも思えませんが……」


「実は、明後日東京に戻るので、明日しか時間が取れないのです」

 そういう事ではないのだが……


「えーっと。それなら、東京でカウンセリング受けられたほうが良いのでは。もっと、腕の良いカウンセラーがいますので……」


「時間はいつでもかまわない、明日の予約を!」

 彼は私の話には答えず、軽く右手をあげた。
 仕方なく、タブレットで予約表を確認する。冷静に考えれば、連日予約を受けるなんてありえない事だった。私は、どうして受け入れてしまったのだろうか?


「夕方五時になってしまいます」

 本来なら緊急のために開けてある枠だ。


「構わない。それでは明日」


 彼は、自分からカウンセリングルームを出て行った。

 慌てて彼の後ろにつき、ちゃんと支払いするかを確認した。明日、まとめて支払うなどと言いて、逃げられちゃかなわない。

 彼は明日の予約確認書を手に、クリニックから出て行った。