その星、輝きません!

「すみません…… 誰も居ないと思って……」

 慌てて立ち上がった彼女の顔はすでに、大人の顔に戻っていた。改めて見るとスラリとした、綺麗な顔立ちの人だ。

 彼女が俺の方へ近づいてくる。お礼を言うのだと思うと、顔が強張ってきた。正直まともに人にお礼など言った事がない。少し緊張して、背筋を伸ばした。


「いえ。お礼を言うのは僕の方なので。本当に助かりました」

 手に持っていた紙袋を差し出すのが精一杯だ。

 
「いえいえ、そんなお礼を言われるほどの事はしていないので……」

 彼女は遠慮しているのか、すぐに受け取ってくれない。


「財布を届けていただかなければ、大変な事になっていたかもしれません。気持ちだけですがどうぞ……」

 紙袋をぐっと前に差し出した。


「いえいえ、届けたと言っても、お店の前だったので五歩(・・)位ですよ。それなのに、こんな美味しい物頂くわけには……」

 そう言った彼女の視線は俺持つ紙袋だ。それに、5歩(・・)ってなんだよ?


「歩数じゃなくて、拾って頂いた事に感謝しているんです。それに、お好きな物をお渡し出来てよかったです」

 なんだか本心でそう思えた。

 やっと彼女が紙袋を受けっとてくれた。ほっとして出そうになったため息を飲みこんだ。


 クリニックのドアを開け表に出ると、なぜだか彼女とのやり取りを思い返し、思わず笑いそうになった。