名刺にあるクリニックの名をカーナビにセットすると、迷う事なくたどり着く事が出来た。

『本日の受付終了しました』の札の下がったクリニックのドアを開けた。


「申し訳ありません、本日の受付は終了しました」

 本当に申し訳なさそうに、受付の女性が頭を下げた。


「いえ、この方にお会いしたいのですが……」

 手にしていた名刺を、受付の女性に見せた。


「失礼しました。只今外出しおりまして、そろそろ戻ると思うのですが」


「そうですか…… 実は、昼間その方に財布を拾って頂きまして。お礼に伺ったのですが。これをお渡し頂けますか?」

 手にしていた紙袋を持ち上げた。すると、裏口の扉が開き一人の女性が入ってきたかと思うと、そのまま倒れ込むように椅子に突っ伏してしまった。

「おかえりなさい。鈴橋さん、昼間何か拾い物しました?」

「拾い物? 落ち(・・)、ばっかりの私が、拾う(・・)訳がないじゃない!」

 机に突っ伏したまま女性が叫んでいる。

 思わず吹き出そうになって、慌てて口を押えた。

「そうじゃなくて…… お財布拾いませんでした? こちらの男性の方が……」

「ええ?」

 ゆっくりと顔を上げる彼女と目が合った。
 あの時、オープンテラスで笑っていた女性だった。昼は、あんなに笑っていたのに、今はまるで駄々っ子のような顔をしている。