「あーどうしようか?」

 星那(さな)は拾った財布を持ち上げた。

「多分、この店のお客さんの落とし物じゃないの?」

 明子(あきこ)は、今ランチをして出て来た店の入り口を指さした。店の入り口からは、二メートルほどしか離れていない。この店から出来てきた人以外には考えにくい。

「そうね、お店に届けてから帰るわ。また、ランチしよう」

「うん。じゃあね。気を付けて」

 明子に軽く手を振った。


 一目でわかる高いブランド物の長財布。男物の黒い財布に、指先から大金の重みが伝わってきそうだ。
 手にした財布から目を離し、駐車場を見渡す。黒色の高級車に向かう、スーツ姿の男性の後ろ姿が目に入った。あの男の人の物かもしれないが、走っても追いつかないだろう。



 夏の終わりの緑と共に、川から吹く風が気持ちよく頬を撫でていく。


 くるりと向きを変え、今、出て来たばかりの店のドアを開けた。