『ネオ、よく聞いてください。ここを出ていくことを、考えなければならないかもしれません。』

リングが真剣な顔でそう言った。

「え……」

出て行く……?私が、外に…?

『まず、誰も来ないのです。こんなことは今までなかったはず。そしてこの研究所は、あなた、ネオを調べるためだけに建てられたものなのです。』

「…私の…ためだけ……」

『この研究所は、旧人類のあなたの進化を調べ、皆が外の気候に対応するための研究にと建てられたものだと、私は聞いているのです。希少だと言っていたあなたを置いてみんな居なくなる。さらに、誰も様子を見に来ない。これは異常…何かあったのです。』

リングは私の手をとって言った。

『ここにある、あなたのカプセル、私の旧式のバッテリーの供給…誰かに持ってきてもらうことができなければ、生きてはいけません。いずれ尽きてしまいます。』

「……死んじゃう、の…?」

リングは悲しそうにして言った。

『あなたを不安にさせたくなかった。だから私はたくさんの情報を集めたのです。しかし、手立てが見つからなかった。人間がいない以上、この研究所もどれほど持つのかも分からない。管理する会社やアンドロイドにもコンタクト…連絡をしましたが、誰も出なかったのです。』

「……。」

自然と下を向いた。ここが無くなったら、私はもう…

『ネオ、ここにとどまりたいですか?もう一つの選択肢が、ここを出て行くことなのです。』

そういえば一番最初に言われた…。でも……

「私、出たら生きていけないって……」

『ネオ、ですからこれは覚悟がいるのです。ネオが一時的に外の気候に対応…外へ出られるようにするものも探してきました。外に出れば、長くは生きられないかもしれない。しかし旅立てば、どうにかする手立てというものが見つかるかもしれません。』

「……。」

リングはまた穏やかに笑った。

『一人で考えますか?私はいつまでも待ちます。』

そう言うと、静かに部屋を出ていった。


そう、きっとここにいても、何の変わりもない毎日しか無い。
食事のカプセルもそのうち無くなって…その前にこの研究所が動かなくなるかもしれない。

私にとって、大切な相手はリングだけ。
リングがもし私と来てくれないのなら、ここで別れることになってしまう。
でも、もし一緒にいてくれるなら、『しぬ』まで一緒にいられる。

リングと、行ってみたい場所がある……
一緒に行きたい、って言ったら、来てくれるかな……