ご主人様は残された時間の少ない自身の代わりにアンドロイドを造ろうと思い立ち、それを恩師であった彼のようにしようと心に決めました。
機械や部品を集めて形にし、動作をプログラムする際、恩師の彼の動作や言葉遣い、考え方、思い出したもの全てをその『者』に与えました。
その『者』が、恩師のしていたように、彼女を守り、彼女を理解しようと思うように…

それが『私』。


「『リング』…僕の言う事をよく覚えておいて欲しい…。…君は僕の恩師のように、人間らしさを、ある人間に伝えて欲しいんだ。君がアンドロイドであっても……」

『はい、ご主人様。』

ご主人様は限られた時間を私のために、恩師の意志と、私が造られた意味について語る時間に費やしました。
ご主人様の恩師とはまた違う『者』として存在するように、と願い…

「……その少女は囚われた眠り姫になぞらえて『姫』と呼ばれているんだ…。『茨に囲われた城』になぞらえた、機械と技術に支配された研究所に、彼女は眠っている…。」

ご主人様の目から、涙がこぼれ落ちました。

「生み出したくせに、何もしてやれない僕を許して、リング…。僕には時間が無い…。リング…姫を……。彼女はこの星の最後の光だ…。もう僕の身体は蝕まれ始めている…。せめて彼女は最後まで人間らしくいてほしい…。そのために君には彼女の理解者に、『騎士』になってあげてほしい…」

『ご主人様が謝ることなどありません。ご主人様のお気持ちは、私の『心』に刻んでおります。私に強い願いのこもった大切な使命をたくし、私を対等に扱っていただいたご主人様に、とても感謝をしているのです。私は旅立ちます、ご主人様も、望みを捨てず、優しく人間らしくあって下さいますよう。行って参ります。』


私は旅立ちました。
ご主人様とは、永遠の別れになるかもしれないことは分かっていた。しかしさよならは言いたくありませんでした。
それが私の生まれた意味だったとしても。

ご主人様、あなたはあの時すでに知っていたのでしょうか?もうひとり、あなたがネオと同じように救いたいと思う相手が生まれていたことを。
私が知っていたら、あなたを止めようとしたかもしれません。だから黙っていたのでしょうか?


旅の末に辿り着いた研究所は、誰も近寄らない砂漠の中にありました。

ネオと乗る、地を行くこの乗り物は、研究所に向かう私のためにご主人様から頂いたものでした。
彼女の身を守るこのスーツも一緒に。

私はスーツと乗り物をこっそり隠し、造られて初めて彼女のために自身を偽って、何も知らない自立型アンドロイドとして、中に入り込むことにしたのです。

ご主人様の大切な願い、そして、私の中に芽生えた使命のために、何としても。