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私の話をしましょう。私が造られる、遥か前の話から…


私のご主人様…私を造った人間の男性は、幼い頃から共にいてくれた『教師』というものがいたそうです。
人間らしさを教えてくれたその彼をご主人様は『恩師』と慕い、様々な事を学んだのです。

『人間らしさを失わないで欲しい』

それが恩師の口癖だったとか。


その頃はすでに、この星の生き物たちの体をむしばむ環境が世界に広がりを見せて約十数年が経っていました。

ご主人様の恩師である彼も、この星の生き物たち同様に気候変動に耐えられず、寝床にふせってしまいました。

『君は私の大切な教え子です…。捨て去られ忘れられていくこの星を、君はどうか見捨てないで…。最後まで人間らしく、生きて下さい……』

それが恩師である方の最期の言葉。

若いご主人様はその方の言葉を心に刻んだそうです。
そしてこの星で自分のできる事に、残りの人生を捧げることに決めた…


その頃に持ち上がったのが、選ばれた人間のための基地を残す計画。

ある一人の幼い少女が、両親と共に研究所に送られたという情報をご主人様は見つけました。
『旧人類』と呼ばれた、遥か昔の体質を持つ少女が見つかったのだと。

ご主人様は悲しみました。
欲に取り憑かれ、自分たちのことしか見えない者たちが、少女や両親に協力の了解など取るわけがない。
何も知らない少女を、研究のために閉じ込める事になるのは目に見えていたと。

ご主人様はその話を調べ上げました。
すると、物心付いて間もないその少女は研究所に連れていかれ、脱走や自害防止の為にと、都合の悪い記憶や両親の記憶を消される事になった。そのためにしばしの眠りにつかされたことが分かりました。

そして、ご主人様はせめて、少女が人間らしく生きられるようにと願いました。

ご主人様を含めたその頃の人間たちは、気候に身体が対応していった代償として、旧時代にあったはずの様々な感覚を失っていたのです。
それを言い伝えてきたのが恩師であった彼。

自分のことしか見えていない者たちに彼女の体調管理などできるはずは無い。
抜け出すことができないのなら、せめて彼女のための知識がある理解者をそばに置いてあげたい、そう思いました。