リングは私に優しく笑ってたずねる。

『ネオ、クッキーを姫君から、もっといただきたいですか?もっといただきたいのなら、それは『おいしい』ということになりますよ。』

「あ…」

そう、それなら、もっとほしい。
たまに噛む固くて香りのしないガムより、味の無い飲み込むだけのカプセルより、これはずっと、これはきっと…

「…クッキー、『おいしい』です!これをもっと私にくれますか!?」

私が勢いよくそう返すと、リングは笑ってうなづく。
女の人とお姫様はそれを聞いて嬉しそうに笑った。

「よかったあ!たくさんあるわ!ネオにあげる!!たくさんたべようね!」

「…あとでお二人には歯みがきをしていただかなければ。」

女の人は私たちを見て困ったように笑った。

私は、少し『甘く』て少し『苦く』ていい香りのするお茶を飲みながら、もらったクッキーを夢中で食べてしまった。


「おうじさまにはこれをあげます…!」

そう言ってお姫様からリングがもらったのは、何かが描いてある小さな四角い布だった。

小さな布は『コースター』というらしい。

『姫君、ありがとうございます。この絵は?』

リングのそばにいた私が見せてもらうと、その小さな布には、上が緑色でふわふわと曲線がいくつも付いて丸くなっていて、下が茶色の長い棒のようになった絵が描いてあった。

「わたしがかいたの…!がんばったのよ…?」

お姫様は少し恥ずかしそうにそう言った。

私の絵よりもつたない様子で、カクカクとまだ少し不器用に曲がる曲線、ところどころはみ出した線や色…
それでもお姫様が頑張って描いたものなのがよく分かる。

「ネオもかくんでしょう?あした、みせてくれる?」

「え…」

研究所の誰も、私の描いたものには気を留めてくれなかった。あの人たちが大切なのは私が『描いた』ということだけ。
実験体のネオは、手描きで絵を描く。今日は何枚描いた。
見てくれることもなく、それは何の絵だった、という、ただそれだけ。

だから今まで見てくれたのはジペットさんとリングだけ…

「ネオは、どんなのをかくの??」

私はそう聞かれて、嬉しくなりこう答えた。

「はい、私が書いているのは、リングや私の行った場所や会った相手、それから『お城』と『お姫様』を想像した絵です…!」

「わぁ…!みせて!ネオのかいたの、いっぱいみたいの!!」

お姫様はそう言ってニコニコと笑ってくれた。

『これは『木』ですね?』

コースターに描かれた絵を見ていたリングが言う。

「『き』?」

リングが言うには、はるか昔にはたくさん生えていた『植物』という、生物がいたこの星には欠かせないものだったらしい。
お花もその『植物』だったという。

「いっぱいあるの!こっちよ!」

お姫様は私とリングの手を両手で引いて案内してくれた。