そろって応接間に戻ると、お勉強から帰ってきたらしいお姫様が嬉しそうに駆け寄ってきた。

そして私の手を引いてソファーをすすめるとすぐに、待ってましたというように私に何かを差し出してくれる。

「ネオ、おはなしおわったんでしょう?おちゃをどうぞ…!おうじさまにはそのあとプレゼントをします…!」

「…『おちゃ』?」

お姫様は私に、キレイな手付きの器に入った温かそうな液体をすすめてくれた。

「ネオ様、お茶というのは飲み物なのです。水と同じですが、香りのついた葉を熱し、お湯につけ蒸して味を出してあり、とても温かいのです。人工茶葉ですが、味も体にも悪くはないはずです。それからクッキーを。造られた新鮮な空気を使った合成材料を使っていますが、こちらも人間にも合うはずです。こちらもどうぞ。」

女の人は説明してくれたあと、私にその『お茶』と『クッキー』をすすめてくれた。

「あ、ありがとうございます…」

私はすすめられたものを、思わずまじまじと見てしまう。
お茶は水やお湯のように飲むものだとわかったけれど、クッキーはどうやって使うものなのかもわからない。
私は困ったまま固まってしまった。

『ネオ、クッキーは水やカプセルと同じ、口にするものですよ。分類は食事ではなく『お菓子』になります。カプセルと違うのは、そのまま飲み込むのではなく噛むのです。そして舌で味わうものだと言われています。香りもするでしょう?』

リングが説明してくれる。

味わう、ってなんだろう?言われてみれば二つとも、なんだかいい香りがする。
同じ噛むものでも、研究所の時から毎日三回、何度も噛むように言われていた『ガム』はとても固くて香りもしなかった。でも、これは不思議な、フワリとした香りがするものだった。

『私も初めて見ました。私の知る人間たちはこれを食す必要がすでになかったのです。ネオ、せっかくですから頂いてはどうでしょう?せっかくのものが冷めてしまいます。』

「う、うん…!」

クッキーをそっとかじって口に入れると、リングに言われたように『サクッ』という音のする、不思議な歯ざわり。
そして何だか不思議な味がした。
ずっと昔に、私のだと言われて渡された薬に似て『甘い』けれど、同じ『甘い』ようでもこちらはふんわりと、優しい、というような甘さだった。

「ねえネオ、おいしい…?」

目をつぶって食べていた私を、いつの間にかお姫様は心配そうな顔で見つめていた。

「『おいしい』…?」

混乱する私。リングは困ったような顔で、私の代わりにお姫様に言った。

『姫君、どうかお許しを。ネオはガムの他、カプセルと水以外を口にしたことは無いのです。憶えている限りでは』