『ご主人様、お体がそんなに丈夫ではなかったのに、こんな無茶をして、』

リングは小窓からご主人様に語り掛ける。

『それでも私の中の感情は喜んでいます。ご主人様が、私に使命をくださったあとも人間らしくいてくださって。何より、生きて私たちを案じていてくださって』

リングはとても、とても嬉しそうに笑った。
そして私をご主人様に向けて紹介してくれる。

『さあ、ご主人様にも紹介しないといけません。ご主人様、彼女がネオです。私とともに旅をした彼女は、誰よりも懸命に生きる一人の人間です。ご主人様、私を褒めてくださいますか?』

リングとご主人様の約束した詳しいことはまだ分からない。
それでも私には、リングがなんだか少し誇らしげに見えた。

「…はじめまして、ごしゅじんさまさん。リングの友だちのネオです。リングは私を心配してくれるとても優しい、私の大切な友だちです…!」

眠っているリングのご主人様は少しくたびれた様子だけれど、嬉しそうに笑ったように見えた。


このカプセルを見ていると、なぜか研究所の別の部屋にいた男の人と女の人を思い出しす。

あの人たちも中で眠っていた。

あのときは分からなかったけれど、もしかしてあれも中に入って眠ったまま生きるための装置だったのだろうか?

そしてあの人たちも、私と同じように体を調べられるために…

…何のため?

私しか旧人類はいなかったのに、私以外に調べられなきゃいけない人なんて…しかも、あんな水の中に入れられて……


『ネオ、ありがとうございます、ご主人様に挨拶を済ませました。すっかり遅くなってしまいましたね、すみませんでした。姫君がおもてなしをして下さるそうですよ。行きましょう。』

私はいつの間にか下を向いて考えていたらしい。リングの声に顔を上げた。

「あ、うん…!」

女の人はまた微笑んでそっと私たちをうながす。
私はリングに寄り添って歩きながら、チラリと今さっきのカプセルの方を振り返った。

リングのご主人様しかいない、無人のカプセルがたくさん寝かされたこの部屋…
私にはなんだかここが、とても静かで悲しげな場所な気がした。