リングはぼう然と女の人を見つめていた。

そして、今まで私が見たことないほど顔をゆがめ、何度も首を振る。

「…リング…?もしかして……」

『いいえ、いいえ!そんなはずはありません!『あの方』は体が弱く、そんな無理をできるはずは』

私はたまらず女の人を振り返る。

「お願いします!!その人は今、どこにいるんですか!?」

女の人は最初から分かっていたように落ち着いていて、真剣な顔のままうなづいた。

「…こちらです、おふたりとも。」

『しかしネオ』

リングはためらっていたのかもしれない。
もし違っていたら、ご主人様じゃなかったら…。
でも私は、その人がご主人様な気がしていた。リングだってそう思っていたに違いなかったから…

「リング!そうかもしれないんだよ!?宇宙じゃなくて、宇宙じゃない場所でもなくて、ここにいるかもしれないんだよ!?…何のために、私たちは研究所の外に出たの?本当のことを知るためだったんだよ?」

下を向いていたリングは顔上げて私を見る。

「…眠っているだけなら、いつか起きてくれるかもしれないよ?死んじゃったんでも、完全に壊れちゃったんでもないんだよ?ジペットさんのところの王子様だって、連れてきて直してもらってたアンドロイドさんたちや機械だって、また動けるかもしれない。そうでしょう?研究所にいた二人だって…」

リングは考え込んだようになってから少しだけ笑った。

『ネオの言うとおりです。そうです、そのためにここまでふたりで来たのですよね。ありがとうございます、ネオ。』

リングとうなづき合う。

「さあ、きっと『彼』もお待ちですよ。おふたりとも、こちらです。」

女の人は優しく笑った。


お城の地下の、頑丈なセキュリティのついた扉の先。
女の人によると、ここに入れるのはこの人だけなんだそう。

「さあ、こちらです。」

私たちが入ると扉はまたしっかりと閉じられた。

部屋にはいくつも寝かされた箱型のカプセル。でもカプセルに付いた小窓を覗いても中には誰もいない。

その部屋の奥に、空間を空けて置かれたひとつのカプセル。女の人はそのカプセルの前に私たちを案内してくれた。

リングはそのカプセルの前にゆっくりと歩いていく。だまったまま、じっとカプセルを見つめて。そして…

『ご主人様?』

まっすぐに向かう視線。小窓から人の姿の見えたそのカプセルに、リングは問いかけた。
その人が話ができないことくらいはリングにだって分かっている。それでもリングの確かめたい気持ちは伝わってきた。

「…。」

私もリングの後ろから少し身を乗り出して、カプセルに付いた小窓からその中をのぞいてみる。

『ご主人、様』

リングの動きは止まった。

私も見たことがある。
リングのご主人様の家にあったパネルに写っていた、リングに似た人の隣にいたのがきっとリングのご主人様。

あのパネルに写ったときよりも年を取ったのかもしれないけれど、あの時の男の人が、この寝かされたカプセルの中に横たわっていた。