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造られただけのアンドロイドと、眠ったままの姫様…
時の止まったこの国にある日、一人の人間がやってきたのです。

この星を出て行く者たちの、最後の便が飛び立ち、しばらくした頃のことでした。

『彼』は計画や研究のことを調べ尽くし、姫様を救いたいという想いを持っていました。

記憶装置である私のもとに来て、彼は私に感情とこの姿を与え、自分と対等であるかのように扱ってくれたのです。

人間の年齢にしてもまだ若年であろう彼は、疲れ切った様子にも関わらず、朝も夜も無く少し寝ては作業を繰り返す。
眠る姫様を目覚めさせ、その人間らしい姫様のためにアンドロイドたちに人間らしい感情を与えようと。


「僕は今、正しいことをしているかなんて分からない。ここを姫が人間らしくいられる場所にしようとするのも、僕の身勝手なのかもしれない。それでも、人間らしい感情を持って生まれた姫を、そして身勝手で造られた君たちを、僕はそのままにはできないんだ。人間は、たった一人では生きられない。心の支えが必要なんだ。研究所で眠らされた人間の『姫』も、この子も…」

彼はネオ様と姫様を、遥か昔の物語である『眠り姫』になぞらえ、『姫』と呼んでいました。

「僕はやるんだ…残された彼女の希望のために。そしていつかやってくるかもしれない、『恩人』であり僕の『息子』でもある彼へ、僕ができることを…」

まだ眠っている姫様を前に、彼は私に姫様の育て親の役割を与えました。

「君は研究所にいる人間の姫を知る、唯一の存在…もし彼女と僕の『息子』が来るようなことがあれば、受け入れてあげてくれ…。真実は、君が話すかの判断でいい…。ごめん…君に全てを託さなきゃならなくなってしまったね…。僕の体はもう…。姫を、頼む…」

姫様の目覚めはもう目前でした。
彼はこの街の地下で見つけたある装置を整備し、そこに体を横たえました。

「ここはもうアンドロイドたちの…君たちの国だ。君はその知識で『姫』を、この国に造られたアンドロイドたちを助けていってほしい…」

別れを悲しむ私を見て、彼はこう言い残しました。

「僕の大好きだったあの子に、似せるんじゃなかったな…あの子とは違うはずなのに、君も優しすぎる…。僕は眠るよ、もう一度目覚めることができるか、分からないけれど…。いつか君や、姫たちや、僕の息子にまた会えることを……」


その後目覚めたアンドロイドたち…このドームの『住人』たちによって街づくりが進み、その甲斐あって街は完全なものになり、姫様のための城が建てられたのです。


目覚めた姫様は、自分がアンドロイドである他は、私がお教えした『ネオ』という人間の『自分』がいた、ということしか知りません。
ただ、自分のなかにはネオ様と同じ、人間の感覚が流れているのだと信じて。

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