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その頃この星は、気候が大変動を起こし、生き物たちの絶滅危機が迫っていました。
進化をしたはずの生き物たちでも、気候変動に耐えられなかった者は次第に弱って亡くなっていき、選ばれた人間や富豪たちはこの星を捨て別の星へ。

そうでない人間たちはただ順番に、体を少しずつ蝕まれながら、別の星からの迎えを待っていました。

そんなとき、ある研究所では人間の有志による、ある計画がひっそりと持ち上がりました。

それは、人のいなくなったこの星をいつか自分たちが手に入れるため、自分たちの基地を残すというもの。

表向きは、この星で生命が生き残るための研究だとされていました。

しかし、快適な環境を作るには自分たちの体や感覚だけでは情報が不十分だったのです。
自分たちは進化をしてしまった『新人類』。そのため、感覚にすぐれていた旧人類の感覚との比較ができず、このままでは本当に快適な環境は目指せない。
ある者は旧人類の追求のため、ある者は理想郷の実現のため…
私の意識ができた今考えても、みな取り憑かれたようになっていたように思います。


ある時、『旧人類』の奇跡の少女がいるとの情報を得ました。

旧人類ならば人間らしい感覚を持ち合わせている、これほどの研究材料はない、と、少女は何も知らない幼い頃に、管理された研究所に入れられました。

生きる希望を失うことが無いよう、眠らせ、一年以上という時間を掛けてそれまでの大切な記憶を消され、上書きされ…

…その表情ならば、もうお分かりなのでしょう…
そう、それがあなたです、ネオ様。

希少だったあなたを研究をできる設備が整っていたのは、あなたのいたあの研究所しかない。そこはすでに人間など一人もいませんでした。
すべて遠隔操作されていたアンドロイドたち。それを操っていた人間たちは、皆この地にいたのです。

一刻も早く計画を完成をさせたい。
その私欲のための一心で、あなたの心も考えず、あなたの生きる権利も大切なものも奪って…


その頃この地域には、あなたの生まれた場所と同じような、ごくわずかな自然が残っていました。

研究者や有志たちによる計画は、誰もいなくなったこの地にて急作業で行われました。
周辺をドームで囲い、かつて世界のあちこちで見られた家や建造物を建て、このドームの中には街並みが作られた。

そして、あなたの分身でもある姫様も…

そうです。
研究所で分析されたネオ様の人間らしい感覚を、全て持ち合わせるよう造られたアンドロイド、それがあの姫様。

自分たちの感覚の手本にするためだけに造られました。

しかも、姫様の完成はその段階では成されなかったのです。

ここにいた人間たちは、皆ある日突然出て行きました。
慌ててこの星を出ていったのかもしれません。本当のところは私にも分からないのですが。

その頃には研究所にいたアンドロイドたちも、すでに役目を終えていたに違いありません。

その段階で、私への研究所からの情報は途絶え、姫様は、まだあの幼い頃のネオ様の姿を模し、眠りについたまま。
このドームは、研究者たちの手助けをさせるために造られた、思考のないアンドロイドたちだけが歩き回る街と化していました。

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