彼と生活を一緒にするようになって、私は気持ちが穏やかになっていた。

彼は私の気持ちにすぐに気づいてくれる。
例えば、高いところにある絵描き道具を取ろうとすれば、踏み台を持ってきたり、取ってくれたりする。
指で指し示したり、ジェスチャーで提案してくれたり。その意味がわかってくると私も嬉しくなって、彼がまるで初めてできた仲間のようだと思った。

彼の首すじには名前のようなものが書いてあったため、そのまま私は彼を『リング』と呼ぶことにした。


「…リング、あなたは知らない…?この建物の外が…どうなっているか…」

私はいつものように絵を描きながら、リングに話し掛けた。
リングは首をかしげ、考えるような仕草をした。

「あなたにもわからないのね?…ねえ…あなたは、私に嘘をついたりしないでしょう…?」

私の、蚊の鳴くような小さな声に、リングは微笑み、うなづいてくれた。

「良かった…!ねえリング…私と、ずっと一緒にいてくれる?」

彼は私の手をそっと取った。

「あ……」

リングが自分の小指に私の小指を絡め、目の前に持ってくる。そしてそのまま、絡めた小指をそっと揺すった。

「…??」

そしてまたニコリと微笑んでくれた。

しゃべることのできないリング。
してくれたことの意味は、私にはわからない。でも、一緒にいる、と言ってくれているような気がした。

「…わかった、ってことだよね…?ありがとう…!」

彼は私を見てうなづいた。


ある日の朝、私の『食事』が来なかった。
いつももらうはずの数個のカプセル。
それに先生も所長も、今日は様子を見に来ない。

「どうしたんだろうね…リング…?」

リングは微笑んだあと、たった一つだけ、カプセルを私にくれた。

「これ…私の…??どうしたの、これ…」

リングは微笑んだまま。

「…ありがとう…!」

私はそっとカプセルを受け取り、口に水で流し込んだ。空腹が満たされた気がした。


「誰も来ないね…」

しばらく待っても誰も来ない。それどころか外から物音もしない。

リングは笑って、自分を指差し、ドアを指差したあと、私の前で手を広げて下ろした。

「え〜と…『私が見てくるから、ここにいて』かな…??」

リングはニッコリ笑ってうなづいた。

「わかった。お願いするね。」

きっとリングは、外の出口がもし開いていたら危ないと、気づかってくれたんだ。