「おやすみなさいジペットさん…」

『おやすみ、ネオ。リングは後で来ておくれ。持ってきてくれたバッテリーの話をしよう。』

『はい、すぐに行きます。』

私とリングにそう言うと、ジペットさんは隣の部屋に向かった。


『ネオは変わりましたね。』

私がいるソファーの隣り、椅子に座っているリングが言う。

「私、何か変わったの…?」

自分が変わったのかは分からない。でも、前より泣いたり怒ったりはするようになった気がする。

『ネオは前よりずっと笑うようになりました。それに、ハキハキと自分の考えを言うようになりましたね。私はとても良いことなのだと思います。より人間らしくなってくれて』

「人間…らしく……??」

旅に出る前の私は、人間らしく無かったのかな…

『ネオが人間の子供らしくいられることが幸せなのだと思っていましたが、そうですね、人間は成長するのですね。ネオ、人間らしく生きていて下さい。』

「…うん…!」

リングの言った『人間らしく』の意味がよく分からなかったけれど、リングが喜んでくれたのが私は嬉しかった。


眠っていて、ふと目が覚めた。
そばに置いてくれてあった精製水を飲み、外の見える場所を見るとまだ暗かった。

考えてみれば研究所は外が見える場所が無かった。
だから空が青いことも、風があることも、夕暮れは赤く、夜は暗くなることも知らなかった。
私を外に出さないためだったのかもしれない。

誰も教えてはくれなかった外のこと。
砂、海も、太陽、月、星も全部、リングが教えてくれた。

誰もいなくなった研究所をリングと出て、どれくらい経っただろう?
リングはなんだか変わった気がする。前よりずっと柔らかくなったし、前より言葉に自分の気持ちが出ているような、そんな。
私も変わったらしい。

でも、いつまで生きられるか分からない私。普通の人間よりも気候が合わないのを無理に外に出ているのだから。
リングは何も言わないけれど、私をかなり心配してくれているのが、リングを見ていて分かる。

「リングみたいに私も、何も気にしないで外に出たいな……」

そんなことを言っても仕方のないこと。
でも私は、誰もこの部屋にいないのをいいことに、一人つぶやかずにいられなかった。