『私はある人間をもとに造られました。ですからその人間の感覚と、アンドロイドである自身の感覚が混ざり合ったようなのです。』

「そういえば前に言ってたね…でも、え〜と……?」

リングは優しく笑って説明してくれた。

人間というのは感覚がある。
普通のアンドロイドは、人間とともに暮らせるようになっているため、普段は『標準』で力を使うように『設定』されているという。

『私の場合は、ある一人の人間をもとに造られているので、その人間と同じような感覚が設定されているのです。体力や力と呼ばれるものは人間とはもちろん違います。ですが通常も、その人間と似た感覚でネオに接しているはずです。』

だからリングは私とあまり変わらない気がしていたんだ…

『しかし先ほどゲートを通った際、その人間と同じように痛みを感じたようになってしまったのです。実際には痛みはないのですが。』

「…きっと、私にはわからない不思議な感覚なんだね……」

私とあまり変わらない感じのアンドロイド、それがリング。私は他に、研究所の人たちしか、人間は会ったことがないから。
私には、リングと自分の差がよくわからなかった。

リングが痛かったなら痛いのに…
きっと、私と同じように……

『これでしばらくは大丈夫でしょう。しかしこの先はさらに何が待ち受けているかわかりません。この近くにある海ですら、あなたの体にも影響がないとは言い切れないのですから。』

「そうだね……。それでリング、誰と話をしていたの??私には何も見えなかったの…何の話をしていたのかも分からなかった……」

『そうでしたね。これを走らせて、休めるところを探しながら話しましょう。ご主人様の家のように、ゆっくりとできる場所は必要ですから。』


リングが言うには、あの壁は、管理されたアンドロイドと、されていないアンドロイドの棲み分けをする境界線なのだという。
リングも話に聞いていただけで、見たのは初めて。
リングはそれを監視する人工知能と話していたそう。

『私は旧式ですので、情報を受け取ることはできても、上手く発信…伝える事ができなかったのです。なので私は言語で伝え、それを相手に変換させました。人間と交流をしたことのある、融通のきく人工知能で良かったです。』

私のような純粋な人間やリングのような旧式のアンドロイドは、しっかりとした管理が出来ないため、ずっと世界の外だった。だから連れである私まで疑ったらしい。
人間はほとんど外を出歩くことがない。そのせいで…

『話には聞いていたのです。しかし人間が簡単に中に入れたというのを聞いたことが無かった。その見えない線は、人間の体に害があるかもしれない。ですからネオをこのまま通すのは危険だと判断したのです。管理下の広大な地域をぐるりと囲んでいるため、入るためには必ずセンサーを通らなければいけないはずです。』

たくさん旅をしてきたと思っていたけれど、世界というのは、私が思っているよりもずっと広いのかもしれない…