綿のようなほこりが舞う入り口。
家はジペットさんのお家よりも小さくて、でも部屋はリングが掃除をしてくれたのかキレイになっていた。

隣の小さな部屋にはいろいろな何かの部品が、いくつもの棚にたくさんある。

アンドロイドも人間も、誰もいない…

『部屋は掃除しておきました。入り口はのちほどします。ただいまスキャンもしたので、この家でならスーツを脱いでも大丈夫だと確認出来ています。』

リングは私の着替えのために隣の部屋に移ってくれた。

私はしばらくぶりにスーツを脱いだ。
スーツ内部に浄化装置があるとはいえ、やっぱりスーツが無いほうがいいに決まっている。

リングは隣の部屋から私に声を掛ける。

『ネオ、家の浄化設備も動きます。どうぞ使ってみてください。』

私はリングに教えてもらった人間用の浄化設備で、体中を蒸気と泡で満たしてから流し、よく乾かしてから着替えた。

戻ってきたリングは、私に水と食事のカプセルを手渡して、ベッドへ案内してくれた。

人間用の設備がある、ということは、『ごしゅじんさま』は人間…?

「…それであの…『ごしゅじんさま』さんは…?リング、誰もいない、って…」

『はい、おりません。私のご主人様は尊敬するある方のもとへ、遠く旅に出たのです』

リングはそう言ってなぜか天井を見た。
私にはなんだか、それよりもっと上を見ている気がした。

ずっと前に聞いた、宇宙、かな……それとも、それよりもっと上…?
そこには何があるんだろう…

もしかしてそこに、リングの『ごしゅじんさま』はいるの…?
もうリングの二度と会えないところに…

『カプセルは飲めましたか?疲れたでしょう。ベッドにどうぞ、横になって聞いてください。』

「…ありがとう、リング…。」

私はゆっくりベッドに体を横たえた。
久しぶりのベッドで、私のではないけれどとても安心出来た。

『私のご主人様は、アンドロイドを造る機械技師ではありませんでしたが、ある目的で私を造りました。ただ、誰かの助けになるようにと願って。ご主人様は体が弱かったので、私一体だけを造ったのです。』

「…そっか…私の助けになってくれてるから『ごしゅじんさま』が許してくれる、って言ったんだ…」

リングはそれを聞いてハッキリと瞬きをし、

『そうですね。』

と言って微笑んだ。

『何も言わずにこちらへ連れてきてしまって、本当に申し訳ありませんでした。ネオが気に掛けてくれると思ったので、伝えずに済まそうとしてしまいました。』

きっと、いないのが分かっていても、リングは会いたかったんだ…
私に言ったら、きっといないことを思い出して、辛くなるから言葉に出来なかったのかも…

なぜ『ごしゅじんさま』はリングを置いて行ってしまったんだろう……