『おや??困ったな。』

背景の絵の板を場面ごとに取り替えていたジペットさんは、首を傾げた。
スラッとした服を着た男の子のお人形が動かないらしい。

お姫様のお人形は必死に私たちに頭を下げている。

『ごめんよお嬢ちゃん、王子様が動かないんだ。さっきメンテナンスをしたんだが。』

「え……」

私の中に不安が広がった。
お姫様は頑丈なお城に閉じ込められて、それで助かるのかな…王子様は、お姫様を助けるんだろうか…

『本当にごめんよお嬢ちゃん。泣かないでおくれ。』

ジペットさんはなぐさめるように私の頭にそっと手を置いた。

「…う……」

いつの間にか私の目に涙が溜まっていた。
お話のお姫様が心配で、それだけで…

『ジペットさん、バッテリーの不具合では無いでしょうか。見てみましょう。』

『そうだな!そうしよう!』

リングの言葉に、ジペットさんはリングと一緒に王子様の人形を調べ始めた。

私は困った顔のお姫様のお人形を自分の膝に乗せてふたりを待った。

『困ったな。バッテリー自体の交換をしないと無理なようだ。だが通信もなぜか取れずに、取り寄せることもできない。』

「そんな…!!」

悲しむ私にリングは笑いかけて言った。

『ネオ、そのために私たちは旅に出たのです。ジペットさんのような方が残っているのが分かったのですから。』

リングはジペットさんに向き直った。

『ジペットさん、私たちは、自分たちの他にも誰かいないか、助けて下さる方が残っていないかを探して旅に出たのです。』

「っ…私たちのいた場所の他の人たちが、ある日突然いなくなっちゃったんです…!だから、私とリングは旅に出たんです…!」

『そうだったのかい。すまないねえ、私はどれくらい眠っていたのか分からないんだ。外がどうなっているのかも分からない。』

ジペットさんは本当に困った顔でそう言った。

「いいえ…」

私は悲しかったけれど、リングの言うとおり、ジペットさんのようなアンドロイドさんが残っていることがわかったのだから。

『分かりました。ありがとうございました、ジペットさん。私たちはまた旅立たなければなりません。ネオ、ジペットさんに挨拶を。』

『ネオ??はて?いつか聞いた名と同じだ。』

「ジペットさん、ありがとうございました!また必ずリングとここに来ます!」

『ああ、またおいで!必ず王子様が動くようにしてみせよう!この子たちのメンテナンスもしなければな。』

初めての悲しい別れだった。
研究所から出ていく人はいても、私は出られなかったから。
…私が今日は出て行く方…

『ではまた、ジペットさん、お元気で。』

「っ…いってきま~す!!」

私たちはジペットさんと人形のお姫様に別れを告げ、また広い大地へ旅立った。