私はいつも、他にすることが無いため絵を描いて過ごす。
小さい頃、違う先生が教えてくれたお話を元に自分なりに描いてみている。かなり時間をかけて、たくさん考えながら。

お花も、王子様も、お姫様も、お城も、見た事なんてないから、その先生にせがんで、どういうものなのかを教えてもらった。
でもその先生はもういない。私に別れも言わずに辞めてしまったらしい。もう顔も覚えていないけれど…

だから、教えてもらった記憶と私の想像だけで描いている。

「ネオ、あなたはデジタルでは描かないのですね。」

「先生…」

先生がいつのまにか部屋の前に立っていた。

「…私はこの、色つきのペンや絵の具がいいです…手で描くほうが好き…。」

お城のお花はいろんな形や色があるっていう。
お姫様はキレイな、ドレスって服を着て、嬉しそうに笑っているって。
王子様も、キレイな服を着て、優しそうだって。お城って…どんなかな……白い壁の大きな建物らしいけど…

私の手が止まる。

見てみたいな、本物のお城や王子様やお姫様、キレイな花がたくさん植えてある場所…。

誰ももう、教えてくれない。
あの先生はもういないし、今の先生は知らないって言うばかり。所長に聞いても、他の人に聞いても、見たことない、知らない、って……

本当かな?本当に知らないの?


「(…良くない兆候では……)」

「(研究の為と思っていたが…ネオの記憶を消すしかないな……全く余計な……)」

私の部屋の外からかすかに聞こえる、焦りとイラつきの声。
私の記憶、消されちゃうの…?せっかくずっと描いていた絵も、みんな忘れちゃうの…?

『ズキッッ!!』

胸が痛んだ。すごくドキドキして涙があふれて…

そのとき、体がいきなり軽くなり意識が途切れて、次に見たものを私は直感的に思った。

(…私、夢を見てる…?)


小さい私が、顔の見えない誰かと話している。周りもその人もボヤけて、よくわからない。

「…ねえ、『』、さっきのおはなし、おはなってどんなの?やさしい『おうじさま』と、うれしそうにわらってる『おひめさま』は、『おしろ』ってところでくらすんでしょ?」

「ネオ…もう寝なくちゃ…。明日は『みんな』にナイショで『』へ行くんでしょう?」

肝心なところは聞こえない。でもとても優しい声で私に話しかけてくれる。

「うん!ナイショでたのしみ!おやすみなさい!またききたい!」

「…分かったわ…。」

すごく心地良い声で、小さい私の頭に優しく手を当てている。

(…いいなあ…もう、私には誰も……)