また、羽華を抱きしめると、今度は小さな腕で抱きしめ返してくれて、柔らかい体温にホッとした


嬉しくて、つい強く抱きしめていたらしい


顔を上げた羽華は酸欠状態だった



「………ふぅ、え、あれ?湊先輩は?」


「さぁ?俺は視界に映ってなくて嬉しいけど?」


「もう!」



キョロキョロと探してみても近くにはいない


帰ったか?そう思って羽華と下に降りると、



「………何してんの」


羽華と二人で部屋を覗くと、テーブルで向かい合って座る、母さんと九条湊


「あ、話、終わった?」

「はい!湊先輩こそ、お母さんと仲良しになった感じですか?」

「うん、この人静かで落ち着いてて、まるでこの二人の母とは思えなくて、びっくり」


九条湊のところにタタッと寄って行く羽華は本当に幸せそうで


羽華が嬉しいならこれでいいじゃないかと思えた


「私も羽華の彼氏さんがこんなに美形でびっくりよぉ」

「えへへ、もっと言ってもいーんだよぉ!!」


つかなんで母さんのこと手懐けてんだ、こいつ

天然タラシか?



「おにーさん」


こっそり睨んでいたつもりがバレたのか、九条湊が少し微笑んでこちらに歩いてきた


「なに?」


隣に並ばれると、少しだけ見上げなきゃならないのが腹立つな


俺の気持ちなんてわからない九条湊は話し始めた



「羽華、おにーさんの話するとき本当に楽しそうなんです。まぁ、話の内容は、おにーさんの羽華へのイカれ具合が伝わってきて、俺にはおにーさんの良さがまったく伝わんないんだけど……」



羽華、俺のこと話してたんだ


てか、イカれ具合ってなんだよ!


溺愛の間違いだろ!


訂正しようと、口を開き掛けたとき


静かに微笑んで



生意気にもこいつは言った




「羽華の大切な人は俺も大切にするんで、あんまり嫌わないでくださいね?」




その笑顔があまりにも綺麗で、思わずドキッとしたのは気の迷いだ


言い返そうと九条湊を見れば



ほら、今はもう無表情でぼんやりしてるし




「……君ぐらいが羽華には丁度いいかもね」

「……そのうち、君で良かったって言うようになる」

「……なんだよ、自分だって相当溺愛してんじゃねーの?」

「……まさか、それは羽華の役目なんで、取ったら怒られる」


俺の言葉に、また優しそうに笑う姿は、さっきの羽華の重なって見えた



まぁ、いーんじゃないの?


せいぜい、見守ってあげる




大切な俺の羽華は、いつの間にか大切な人を見つけていて


俺じゃない、他の誰かに大切にされていて


それって凄いことだなって、思えた



兄の苦悩の日々は続きそうだな


可愛い妹がいるって大変だなぁ!!




羽華の幸せな姿が間近で見える今だけは、もう少し、イカれたぐらいの溺愛を許して欲しい



「せいぜい、捨てられないよーになっ」

「……俺、おにーさんほど綺麗な女顔初めて見ました、あ、だから彼女出来たことないんですか?」

「う、うるさいよ!!俺の天使は羽華だけなんだよ!!」



生意気なコイツが何年か後に、義理の弟になるなんてこの時は思ってなかったんだからな!!






兄たるもの~完~