「行ってきます。」

私は仏壇の前で手を合わせた。
線香の匂いが部屋中を包み込む。

母は、私が物心着いた時に交通事故で他界してしまった。
今は父と二人暮しだ。
父はとても優しい。
でも私と血の繋がった父ではない。

私が3歳の頃、両親は離婚し、その後すぐに再婚した。
その再婚相手が今の父である。

私は父のことを「お父さん」と呼ばない。
いつもは「ねー」とか、名前である「秀一さん」と呼んでいる。
一緒に暮らして10年以上経つが「お父さん」と呼ぶのは私にとって難しいものだった。

「ひなちゃん、じゃあ先仕事行ってくるね」

「あ、うん、行ってらっしゃい」

ーガチャンー