何の取り柄もない田舎の村娘に、その国の神と呼ばれる男は1秒で恋に落ちる【後編】

「お前達、若者だよ。」
「え…。」

辰は国のため、兵士になったわけではない。
彼にはきっと大きな信念があるに違いない。
彼の目を見て、シドはそれを瞬時に理解した。

「…そうか…。じゃあ、誰か他に一緒に戦ってくれる若い奴はいないか?」

辰の思いをくみ取り、シドはそれ以上は無理知恵はしようとはしなかった。
しかし、辰の事は諦めたにせよ、まだまだ反乱軍には即戦力が足りない。
彼らは仲間を欲していた。

「若い奴か…。」

しかし、辰には思い当たるような人はいない。

「あの時のボーズは?」

シドが言っているその人物とは…。

「…言ったろう。彼は反乱には出ない。」

彼が反乱に出る事は決してない。そんな事はあり得ない。
辰は、そう自分に言い聞かせるようにそう言い放つ。

「…わけありか…。じゃあ、あの子は?」

辰は、もう一度黙ってシドの澄んだ目に視線を絡めた。

「ジャンヌの娘。」
「…。」

分かっていたが、その言葉が辰の耳に届いた瞬間、彼が顔を明らかに曇らせた。

『そのジャンヌは殺されたんやで?』

そして、りんのあの言葉を思い出していた。

「あの時の言葉を聞いて俺は思った。彼女は、この反乱に必要な人間なんじゃないかって。」

シドも感じていた。
彼女は他の誰かとは違う。特別だと…。
それは、辰もよくわかっていた。
しかし…

「彼女は、戦いには向かない子なのかもしれない。いや、ジャンヌも本当は、そうだったのかもしれない。彼女が自ら望み、立ち上がるなら私は何も言わない。しかし、今はまだ彼女は、それを望んではいないだろう。」

彼女がこの反乱に不可欠な人間なのは、辰もよくわかっている。
しかし彼女が、自らがそれを望まなければ、彼女を苦しめるだけ。
それが分かっているからこそ、今はリーダーにそんな言葉で説得するしかなかった。

「…。」
「…わかったよ!戦い向きな奴を探すか!」

シドは、辰のその言葉を聞き、もうそれ以上は何も言えなくなった。