何の取り柄もない田舎の村娘に、その国の神と呼ばれる男は1秒で恋に落ちる【後編】

「連れてきたでー!!」

りんは、辰を人気のない裏山の麓(ふもと)に連れて来た。
りんに、天音の事で話があると言われ、辰は渋々連れられて来ていたのだ。

「…。」

しかし辰は、その人物を見るなり、眉間にしわをよせた。

「いやー、シドが町の見回り中でよかったわー。」

そんな辰に構わず、りんは呑気にそんな事を言った。

「お前…。」

辰はその男の顔を見て、思わず言葉を漏らした。
(この男は確か反乱軍の…。)

「俺はシド。反乱軍のリーダーだ。辰、あんたに頼みがある!」

シドは真っすぐと辰を見て言葉を投げかけた。

「あんたしかいない!一緒に戦ってくれ!」

シドの真っすぐな目は、ただただ、辰に向けられていた。
シドは、辰ならば反乱軍をひっぱってくれ、率いてくれると考えていた。
彼がいればこの戦いに必ず勝利できると。

「断る…。」

しかし、辰からすぐに発っせられたのは、断りの言葉だった。
そして、辰は彼の真っすぐな視線から逃げるように、目を伏せた。

「俺は知ってる。あんたが昔の戦いでどれだけ貢献したか!俺達には、あんたが必要なんだよ。」

シドは必死に訴える。
どうしても彼の力が必要なのだと。

「…俺はもう、戦いには出ない…。」

しかし、辰の思いは、そう簡単には変わらない。

「だからって、兵士として、この国を守るのか?」

シドは奥歯を噛みしめ、そんな言葉を漏らした。
自分の憧れた人物が、今は国のためにただの兵士として成り下がっているのが、どうしても許せなかった。
(どうして彼は兵士に…。)

「この国を変えて欲しい人がいる。」

辰が顔を上げ、シドを真っすぐと見据えた。