何の取り柄もない田舎の村娘に、その国の神と呼ばれる男は1秒で恋に落ちる【後編】

「聞くの忘れてたな。お前の名前。」

そして、京司は笑みを浮かべながら、彼にずっと聞きたかった事を問う。

「…青…。」

青が下を向いたまま、素直に答えて見せた。

「青か…。お前は天師教の影武者だから、ここから出られないんだよな。」

京司が早速、単刀直入にその話題に突っ込んだ。
彼は、以前病にかかっていると言っていたが、彼がここに留まっているのは、それだけではない事は明らかだ。

「…。」

青は口をつぐんだまま、何も答えようとはしない。

「俺が出してやるよ。」

京司は、どこか自身あり気にそんな事を言ってみせた。
あの日、初めて青と会った日の京司とは、まるで正反対。

(だから、その自身はどこからくるんだよ…。バカなくせに…。)
青はその苛立つ気持ちを、何とか抑え込むのに必死だった。

「…いいよ別に。出ようと思えば出れるんだ。」

そして、ぶっきらぼうにそう答えた青は、どこか儚げに窓の外に目を向けた。

「そうか…。」

京司は、青のその言葉に素直に頷くしかなかった。
無理やり連れ出しても意味はない。
その事はよくわかっていた。