何の取り柄もない田舎の村娘に、その国の神と呼ばれる男は1秒で恋に落ちる【後編】


「ファー!やっと出れた。」

そう言って、京司は呑気に伸びをしてみせた。
京司は宰相達の許しを得て、6日目の今日、久々に部屋から出れた。
暴れるでもなく、不満を言うでもなく、ただ黙って部屋に閉じこもっていた京司は、誰かに褒めてもらってもいいんじゃないか?と密かに思っていた。
しかし、それを褒める者なんて、この城にいるはずはない。

「天師教様。」

宰相は反省しているそぶりを全く見せない京司に、内心はイラ立ちながらも、そのイラ立ちを隠すかのように、落ち着いた声で彼を呼んだ。

「わかってるって。大人しくしてればいいんだろう。」

京司はうっとうしそうに、チラリと宰相を見る。

「くれぐれも、外には…。」
「わかってるってー。あ、その代わりに一つお願いあるんだけど?」

お説教はもう十分といわんばかりに、京司は、宰相の話に無理やり割って入った。
そして、何かを企んでるような、あの悪戯な笑顔を見せた。

「もう一人の天師教に会わせろよ。」

そして、ここぞとばかりに低い声で、それを口にした。

「は?あれはただの影武者でございます。」

宰相は、京司からの突然の申し出に、顔をしかめた。
彼がまたよからぬ事を考えているのは、明らかだ。

「会わせろって。」

すると京司が、今度は有無を言わせないよう、威圧的な声で詰め寄った。