「…国か…。」
りんは、ゆっくり噛み締めながら、その言葉を口にした。
そして、時間が経つにつれ、かずさの言った意味を少しずつ理解し始めた。
「恐ろしい所や…。」
城の前の広場に立っているりんは、鋭い目でそこにある城を見上げた。
「城の前で言う言葉か?」
「…なんやおっさん。聞いてたんか?」
多くの人々が行き来するその広場の中で、彼はりんを見つけ、いつの間にか彼の隣に立っていた。
「俺以外の兵士に聞かれでもしたら、捕らえられるぞ。」
「なんや、この国はいつからか言論の自由もなくなったんか…。」
町の見回り中だった辰は、サラリと恐ろしい事を口にしたが、そんな事にひるむりんではない。
「心配せんでも、わいは城に乗り込んだりせえへん。月斗とはちゃうからな。」
りんもまた、本気か冗談かわからないそんな事を言いながら、悪戯っ子のような笑顔で笑ってみせた。
本心には蓋をしたまま。
「…アイツ逃げたそうだ。」
「へ?」
「月斗がまた脱走した。」
「ハハ、またかいなー。」
辰がこっそりと、りんに月斗の脱走の事を耳打ちした。
彼が脱走したことは、もちろん民衆には内緒。知っているのは、城の一部の兵士だけ。
それを聞いたりんは、ハハと笑ってみせた。
きっと、りんにとって月斗の脱走は、ワクワクするイベントのひとつのような感覚なのだろう。

