何の取り柄もない田舎の村娘に、その国の神と呼ばれる男は1秒で恋に落ちる【後編】

「どうして…。」

そして、かずさがボソッとつぶやいた。

「え?」
「全てを知る覚悟がある?」

『覚悟は…あるのか?』

それは、辰にも言われた言葉。
かずさはいつにも増して、真剣な顔で天音を見つめた。
もうその眼差しから、逃れる事は出来ない。

ザ―
その時少し冷たい風が吹き荒れた。


「真実を知らなければ、何も変えられない。」


天音の肩より少し伸びた髪が風になびいている。
広場には、もうほとんど人がいなく、吹き荒れる風が、そこに落ちている葉っぱをもてあそび始めた。

「言うだけなら簡単。変えるのはそう簡単じゃない。」
「そうだね。きっとこの国も、いっぱい傷ついて、変わっていくんだね…。」

かずさの厳しい言葉が天音に投げかけられた。
天音はかずさの言葉を噛みしめ、また城を見上げた。
そして、そんな天音の真っ直ぐな瞳は、夕日に赤く染められている。まるで、その目に炎が宿っているかのように。

「……どう変わるの?」

それを口にした、かずさの顔も夕日の朱い(あかい)光に照らされていた。

『言えないんだ…。この鯉と同じ。』
『お前に俺達の苦しみはわからない。』
『それじゃあ、この国は変わらない。』
『神がいるなら、天師教はいらない…。』

今までバラバラだったピースが少しづつはまっていく。

『私はこの国が好きだ。』
『…うん。』
『この国の声に耳を傾けないこの場所は嫌いだ。』
『…。』
『この国に天師教はいらない…。』

その意味が今なら少しわかる…。




「————この国に天使教はいらない……。」





まるで、自分の口ではないかのように、勝手に口が動いた。
それが必然かのように…。



「!?」



りんは息をのみ、瞬きをする事を忘れ、その場に硬直した。


「…。」



そして、かずさもその言葉に何かを言及する事はなかった。




『天音は天使教と敵対する事になる。』



りんの耳には、封印したはずのその言葉が、何度もこだました。