何の取り柄もない田舎の村娘に、その国の神と呼ばれる男は1秒で恋に落ちる【後編】

「どういう事だ。」

月斗が一直線に向かったのは、かずさの前。
天音やりんの姿など、まるで見えていないも同然。


「天音…青は…あそこよ…。」

しかし、かずさは目の前で睨みをきかせている月斗の事は、まるで無視をし、彼女の視線は天音へと向いたまま。
そして、かずさの白くすらりと伸びた指は、遠くに見える城のバルコニーを指さした。

「…?誰もいないよ。」

天音も、そんな不可思議の構図に違和感を持ったまま、とりあえず、かずさの問いかけに答えてみせた。

そう演説は終わった。
その場所に今は誰の姿もない。


「青は天師教の…。」


ガシ!
その瞬間、突然月斗が話し続けるかずさの胸倉を、勢いよく掴んだ。




「—————影武者よ…。」




かずさは胸倉を掴まれたままその言葉を吐き捨て、それでも尚、天音をじっと見つめた。

「え…?」

「ふざけんな…。」

穴が開きそうなほどの破壊力を持つ強いかずさの視線が、天音を一気に貫いた。
しかし、天音にその言葉の意味を瞬時に咀嚼できるはずもなく、彼女はただ立ち尽くしたまま。
その隙に、月斗の手には更なる力が込められた。