何の取り柄もない田舎の村娘に、その国の神と呼ばれる男は1秒で恋に落ちる【後編】


「天師教様!」
「ん?」

息を切らした兵士が、京司の元へとやってきた。

「も、申し訳ありません。つ、月斗が…脱走しました。」
「…。」

京司は怒る事もわめく事もなく、何事もなかったかのように、落ち着いて窓の外を見た。

「て、天師教様?」

てっきり、京司にこってり絞られると思っていた兵士は、拍子抜けした声で彼を呼んだが、彼からの返答はない。
そう、京司にはわかっていた。こんな日が来る事を。
あの月斗が、いつまでも大人しくあそこにいるわけがないのは、重々承知。そんな予期していた事が現実となっても、驚く事はない。
しかし京司は、それを咎める事もなく、阻止しようとも思わなかったのだ。