「もう、お戻りにならないかと思っていました…。」
士導長がここぞとばかりに、京司にその話題を投げかけた。
京司が城に戻ってからは、妃が決まったりなんだりで、慌ただしくしていたため、こうやってゆっくり二人で話をする事はなかった。
やっと時間が取れた士導長は、京司の元へと足を運んだのだ。
なぜ彼がここへ戻って来たのか…。
その真意を聞くために。
「…少しわかった。外を見て…。」
京司は窓の外を眺めながら、ゆっくりと口を開いた。
窓に映る彼のその表情は、士導長が初めて見たものだった。
彼は外の世界で、一体何を見たと言うのだろう。
それは、士導長にはわからない。
しかし、彼が変わった事だけはわかっていた。
「あなたはやはり、あのお方に似ておられる。」
士導長はどこか懐かしい気持ちで、彼の横顔を見つめていた。
「は?」
「前天師教様に…。」
「アイツの話はするな。」
京司はその言葉を聞いて、明らかに表情を曇らせた。
「そんなに、お嫌いですか?」
「嫌いも何も、アイツは他人だからな。」
「…例え血がつながっていなくても、あなたのお父上だった方ですよ。」
士導長は優しい口調で諭すように、京司に語りかけた。
しかし、京司が今も前天師教を疎ましく思っている事には変わりはない。
彼はもう、この世にいないのに。
「アイツが父親だなんて思った事はないよ。俺の事を目の敵にしてたアイツを。」
京司には、前天師教に優しくされた記憶なんてない。
『お前は俺の息子なんかじゃない…。』
そうやって冷たく突き放してきたのは、向こうだったんじゃないか…。
そんな彼をどうやったら、父親だと思えるというのだろうか。
「まあ、でもその通りだよな。血もつながってない、そこら辺にいる普通の子供が天師教になるなんて、誰だって認めたくないよな。」
まるで自分を嘲笑うように、京司がそう吐き捨てた。
なりたくてなったわけじゃない。
その血も受け継いでない自分が天使教だなんて言って、この国のトップに立ち続ける。
そんな事を民衆が知ったら…。
「…。」
士導長は固く口を結んだ。
「…ま、どうせ捨てられるなら、それまでにやれる事やらなきゃな…。」
そして京司がポツリと小さくつぶやいた。
その瞳には、もう迷いはない。
どこか穏やかな顔で、彼はまた外の景色を眺めた。
「…。」
士導長はそんな彼からそっと目をそらした。

