何の取り柄もない田舎の村娘に、その国の神と呼ばれる男は1秒で恋に落ちる【後編】

「どういう…事…?」

皇后は眉にしわを寄せたまま、華子を見た。

「だから、なんで天師教が二人もいるの?」

華子は自分の思った事を隠すことなく、皇后へとぶつけた。
そう、初めに会った青と次に会った京司。二人と対峙した華子は困惑していた。

「…影武者です。」

皇后が静かに答えた。

「影武者??」

華子は何だそれと言わんばかりに変な声を出した。
華子が驚くのも無理はない。華子には、影武者がいる事も、天使教が居なくなった事も、一切伝えられていないのだから。

「ええ。何かあった時のための…。」
「ふーん。で、どっちが本物?」

更にまくしたてるように、華子は尋ねた。

「後に会った方が私の息子。天師教です。」

皇后はいつものように落ち着いた口調に戻り、そう説明した。

「…なーんだ。影武者君の方が美少年だったのにー。」

華子には、謙遜という言葉はないようだ。
やはり彼女の性格は、妃になったからといって簡単に変わるわけはない。

「そうかしら?天師教は私の自慢の息子よ。」

すると、そんな華子に対抗するかのように、皇后は得意気に笑った。

「…親バカ?」

華子が呆れた様子で皇后をマジマジと見つめた。
いつもは、凛としていて毅然とした態度の皇后が、そんな事を言って笑うなんて、華子も想像していなかった。

「…ええ。」

そして皇后はまたニッコリと笑った。

「ま、私は天音とタイプちがうしー。」
「え…?」

しかし、その名を聞いた皇后の表情がまた一変し、固まった。

「お時間です!」

その時、部屋の外から女官が華子を呼んだ。

「はーい!!」

そして、華子が元気よく返事をし、立ち上がった。