何の取り柄もない田舎の村娘に、その国の神と呼ばれる男は1秒で恋に落ちる【後編】

「返せ…。」

そして天音が小さくつぶやいた。

「お母さんを返せ…。」

天音は拳を強く握った。

「りんの両親を返せ!!」

そして今度は顔を上げる。

「天音…。」

りんは、天音をただじっと見つめていた。

「青を返せ!!」
「バカか。」

月斗もまた、ぼそっとつぶやいた。

「おじいちゃんを返せーーーー!!」


――――その叫びは何のため?


「京司を返せーーーー!!」



彼女の悲痛な叫びは、町の賑わいの声に、簡単にかき消された。


「いくつ返って来ると思う?」
「…。」
「全部は返って来ないわよ。」

どこか冷たさを感じるその声が、天音の耳に届いた。
その声の主は、いつの間にか天音の前に立っていた。

「…かずさ。」

天音はかずさの方をゆっくりと見た。

「覚悟はできた?」

かずさは口の端をゆっくりと上げた。


「もう誰も失わない…。」


天音の目線は、かずさから遠くに見える城へと動いた。



「たぶん…それも…無理………。」


しかし、かずさが消え入りそうな小さな声で、それを口にした。
そして、かずさはどこか悲しげな瞳を、そっと伏せた。