「天音悪いな!付き合わせて!」
りんは馬を走らせながら、後ろでりんにしがみつく天音に大声で話かける。
「そんな事ないよ。私だってわかってるよ。私のいるべき場所はシドの所じゃないって…。」
「…そうか。」
馬に乗っていると風が気持ちいい。
天音は颯爽と走る馬に乗りながら、気持ちいい風を感じていた。
「わいの生まれ育った村も小さな村だったんや。」
「え…?」
りんが突然、そして初めて、自分の事について話し始めた。
「わいは婆ちゃんに言われた。石を見つけろってな。」
『りん。お前は選ばし使教徒。奇跡の石と共にあれ。』
「わいの婆ちゃんは占い師みたいなもんで、何や不思議な力があった。そんで村のみんなに崇められていたんや。石の事も使教徒の事も、ばあちゃんが教えてくれた。」
「へー。」
天音は初めて聞くりんの昔話に耳をかたむけた。
「ばあちゃんは、昔からおかしな事ばかり言いよったけど、死ぬ間際言っとった。」
『お前にはお前にしかできん事がある。必ず生き残れ。何があっても。』
『ばあちゃん…?』
『この国の未来をしっかりと見るんだ。その目で!』
「わいの村は、ひどい税の取り立てに悩まされとった。そんで村のもんは、みんなで反発した。」
苦しんでいる村や、町は一つではない。
だから今反乱が起こっている。
「…。」
天音もその事は、もう嫌というほど理解していた。
「結果、わいの両親も殺された。村はなくなった。」
「…。」
天音は唇を強く噛みしめた。
自分の村を失う辛さを、天音も知っているから…。
「わいは憎かった。この国が…。」
天音は、りんが今どんな表情をしているのか、それを見る事はできない。
「…命からがら逃げて、逃げてやったんや。」
しかし、彼のその声には悔しさが、苦しみがにじみ出ていた。
「それは…。」
「この国の未来を見てやるってな…。」
りんの背負ってきた苦しみは、天音には想像もつかない。
「りん…。」
「でもそれも昔の話や。…憎しみは続かんかった。」
「え…。」
りんは手綱を握る手に力を入れた。
「わいは天師教を…。」
ザ―
馬が風と共に駆けて行く。
「…天師教を救わな…。」
「え…。」
「この国を救わな。」
その表情はわからないけれど、りんは真っすぐと前を見ていた。

