何の取り柄もない田舎の村娘に、その国の神と呼ばれる男は1秒で恋に落ちる【後編】

「悪いなシド。わいらには、わいらの仕事があるよって。」

りんの瞳が真っ直ぐ前を見据えた。
そんな彼の姿にシドは釘付けになる。

(彼の視線のその先に見えるものは何なのか…。)

「…それは…。」

(それはアイツと同じか…?)

しかしシドは、それ以上は言葉にはしなかった。
りんは瞳を伏せ、そのまま馬にまたがった。

「天音。後ろ乗り。」

そう言って、りんが天音に手を差し伸べ、天音はその手を取った。

「あの、シド…ありがとう。」

天音は、りんの突拍子もない行動に観念したのか、シドにお礼を言って、りんの後ろに乗った。
天音がここに居たのはほんの数日だったが、ここに居て様々な事が見えてきた。
この国について考えるようになった。

「…ああ。」

シドも、もう反論する事をやめ、ただ一言そう答えた。
もう、何を言っても無駄なのだと悟ったようだ。

「あんたらにしかできない事やりーな!!」

そう言って、勢いよくりんは馬を走らせた。
そして、シドは二人が見えなくなるまで、そこで見送った。

「…どいつもこいつも自分勝手…。まあ、今の時代めずらしいか…。」

そう言ってシドは笑った。