何の取り柄もない田舎の村娘に、その国の神と呼ばれる男は1秒で恋に落ちる【後編】

「失礼します。」

その扉を開け、星羅が部屋へと足を踏み入れた。
やはりここも、だだっ広い部屋。そこには会議室のような円形に並んだ机と椅子があるだけ。

「こちらまで来て、座ってちょうだい。」

奥の方に居る、きらびやかな衣装をまとった皇后が、こちらへ来るように促した。

カツカツ
その足音と共に、星羅の鼓動も早くなる。
カツ
そして皇后の前で、足を止めた。

「星羅です。」

そう言って星羅は、ゆっくり頭を下げた。

「え…。」

皇后が確かに覚えのあるその名を聞いたとたん、目を大きく見開いた。

「覚えていますか?」

そう言って星羅は、真っ直ぐ目の前に居る皇后を見つめた。
幸い、もう先程のような緊張はない。

「星羅…ちゃん…?」

皇后は驚きで表情は固まったまま。
しかし、彼女の口は自然とその名を呼んだ。
昔と同じ声で、同じ呼び名で。

「そうです。」

星羅は、その瞳を真っすぐに皇后へと向け、落ち着いた声で答えた。

「あなた…生きて…。」

皇后の表情は、まるで泣き出しそうな表情へとみるみる変化した。
なぜなら、彼女は全て知っていた。
あの町があの後どうなったのかも…。

「はい。」
「よ、よかった。」

皇后は潤ませた目で、星羅を見つめた。
今、目の前に立つ星羅は、どことなくあの頃の少女の面影はある。
綺麗な長い髪と、真っすぐな瞳。そしてその澄んだ声。

「私は彼と、京司と全部話しました。だからもう何も話すことはありません。もちろん妃になる事もありません。」
「…そう。」

皇后は、落ち着きを取り戻すかのように、ふぅと息を吐いた。