何の取り柄もない田舎の村娘に、その国の神と呼ばれる男は1秒で恋に落ちる【後編】

「長い一日だったな…。」

その頃、入り口にいた彼も満月を見上げていた。

「はぁはぁ…。い…た…。」

天音が、暗がりの中に紛れた彼の姿を見つけた。

「おせーよ。」

そう言って彼が笑った。
今は暗くたって見える。

「だって…。」

だって月が優しく照らしているから。

「もう満月が見えてるぞ。」
「だって…。」

天音は言葉が続かない。
さっきから同じ言葉を繰り返すばかりだ。

「待ちくたびれた。」

そう言って、彼がまた笑った。

「京司…。」

天音は愛しい彼の名をそっと呼んだ。

「ほら行くぞ。」

京司が手を差し出す。

「うん。」

天音はその手を強く握った。