何の取り柄もない田舎の村娘に、その国の神と呼ばれる男は1秒で恋に落ちる【後編】

「これは終わりではなく、始まり。」




―――そして、静かに幕は上がった。




「どこ…じいちゃんは…。」

ここで初めて、ポツリと覇気のない声が天音から発せられ、りんは天音の方へと視線を移した。

「それを聞きたければ、石を持って行くのよ。あそこへ。」

そう言ってかずさは、遠くにそびえ立つ城を指差した。



―――そう、それは始めから決められた運命。



「返してよ…。」

力ない声でまた、天音がつぶやいた…。

(私の大事なモノ)


「城イコール国…。」

りんもまた力なくつぶやく。

「石だかなんだか知らねーけど、回りくどい事はもういいだろう。国を潰せばいいだろ?」

なぜか、突然、話に参戦してきた月斗が、そう吐き捨てた。
彼もまた、彼女と同じように、取り返したいものがあるのだ。

「…。」

彼の声を久しぶりに聞いた天音が、何の感情も持たない瞳を月斗に向けた。

「ジャンヌダルクは人々を率いたけれど、国にはめられて、多くの犠牲を出した。その一回の失敗によって、人々は彼女を疑うようになった。その事につけこんで、国は彼女を魔女だと言い張り殺した。」

かずさはなぜかここで、ジャンヌダルクの話を持ち出してきた。
その意図とは一体…。
りんはかずさの話に耳を傾けながら、そんな事を考えていた。

「…。」

しかし、その話に天音はやはり目を伏せた。