何の取り柄もない田舎の村娘に、その国の神と呼ばれる男は1秒で恋に落ちる【後編】

「私達が育ったあの町はもうない。」

星羅がゆっくりと目線を落とした。

『星羅待ってよ!』
『京司遅い!』 

星羅の故郷は小さな町。そこで両親と暮らしていた。
どこにでもいるような、歌う事が好きな少女だった。
そして京司もその町で、母と二人だけで質素に暮らしていた。

『また今日も星羅ちゃんと遊んでいたの?』

京司の母が尋ねた。

『なんで星羅はあんな足が早いんだ!?』
『だって星羅ちゃんの方がお姉さんでしょ?』

そう言って母は笑っていた。

『星羅は本当に歌が好きなんだなー。』

そして、幼い星羅は、よく京司の前でも歌っていた。

『うん!私、将来は歌手になるの。』
『将来?』
『京司は?将来の夢は?』
『俺は…まだわかんねー。』

そう言って、京司はニッと笑った。
そう、それは遠い昔。
まだ、何にも縛られていないあの頃の記憶。



「なんで、あなたが天師教に?」

そして、星羅はずっと聞きたかった事を、京司にぶつけた。

「…。」

その瞬間、京司の表情が明らかに曇った。

「あなたは、あの町で育ったやんちゃなただの男の子でしょ?」

星羅は京司に畳み掛けた。
星羅と毎日のように遊んでいたあの頃の彼は、どこにでもいるただの男の子だった。
そんな彼がなぜ、この国で神と呼ばれる天使教へとなったのか…。星羅はその真意を知らない。

「…もう忘れてると思ってた。」
「え…?」

京司が小さくつぶやいた。