何の取り柄もない田舎の村娘に、その国の神と呼ばれる男は1秒で恋に落ちる【後編】


「ファー、疲れたー。」

月斗は馬車を降り、大きくあくびをした。
口では疲れたとは言ってはいるが、馬車の中ではほとんど寝ていた彼の体力が、回復に向かっているのは間違いない。

「この国は狂っとる。」

そんな呑気な月斗とは対照に、りんがめずらしく低い声でつぶやいた。

「今頃知ったの?」

今日は約束の5日後。

城下町の入り口には、あの日と同じように彼等を出迎えるかのように、かずさがいた。

「…。」

りんは、いつもの笑顔は封印し、ただ真顔でかずさを一瞥する。

カチ

そんなりんの横で、月斗がまた呑気に、たばこに火をつけた。

(コイツたばこなんて吸うんやな…。)

りんは、なぜかそんな事をふと思った。
この5日月斗と行動を一緒に共にしたが、彼がたばこを吸うのは、これが初めての事だった。

「プハー」

月斗がその場に座り込んで、美味しそうにたばこを吸い始めた。

ザッザッ
その時、足を引きずるような不快な音が、りんの耳に飛び込んできた。