何の取り柄もない田舎の村娘に、その国の神と呼ばれる男は1秒で恋に落ちる【後編】

「おかしいと思わんか?」
「何がだよ!」

それから小一時間りんに連れ回された月斗は、疲れきっていて、やっぱり機嫌が悪い。

「この町に住んでる人らは、みんな、最近越してきた人ばっかりや。なんで、12年前から住んでるもんがおらんのや?」

りんは、この町の人達に話を聞いて歩いたが、みな口をそろえて、そんな昔の事は知らないと言う。

「この町…なんか変やないか?」
「しらねーよ!!」

月斗は、疲れ混じりのイライラが頂点に達しそうで、りんの話なんかどうでもよさそうにそっぽを向いたっきり。

「何やお前、天音の事知りたくないんか?」
「興味ねー。」

月斗は全くと言っていいほど、その話題に興味を示そうとはしない。
しかし、なぜかりんの前から姿を消すという考えは、彼の頭には浮かんではこなかった。

「お前達か…。妙な事聞き回ってるっていう奴は…。」

一人の老人が、この町で不可解な事を聞き回ってる者がいるという噂を聞きつけ、りん達に話しかけてきた。

「なんやじいさん。じいさんは、ずっとこの村に住んでるんかいな?」
「…。」
「だんまりかいな。ただわいらは、天音っちゅう女の子が…。」
「その名を簡単に口に出すでない。」

老人が厳しい口調でそう言い、りんを鋭い目で射抜いた。

「は…?」

りんは思わず、眉をひそめた。
そして、確信した。

(このじいさんは知っている。天音の事を。)
「ただ天音の名前出しただけで、そんな睨まんでも。」
「…お前らは何にも知らんのだろう。」

その老人は、尚も厳しい表情を崩す事はない。

「わいらは、その子の友達なんや。」
「友達?」

りんのその言葉に、不審感たっぷりに、老人が顔を歪ませた。
そんな話、信じられないと言わんばかりに。

「そうや。」

しかし、りんはひるむ事なく、自信満々に答える。

「その名はこの町では、禁句だ。」
「…なんやそれ。まぁ、どうせまた国やろ。」
「チッ。」

りんの呆れ返ったようなその言葉に、月斗が思わず舌打ちを打つ。

「……。」

老人は肯定する事も、否定する事もなく、少しうつむいた。




絡まった糸はそう簡単にはほどけない…。