何の取り柄もない田舎の村娘に、その国の神と呼ばれる男は1秒で恋に落ちる【後編】

「私は…。死ぬことが許されない人間なんです。」
「え…?」

その言葉に皇后は、さらに眉をひそめた。

(彼女は一体、何を背負っているというの?)

「…す、すみません…。何でもないんです。」

天音はまた下を向いて、同じ言葉を繰り返した。

「…私の望みは、天師教に幸せになってもらう事。」

すると、なぜか皇后は、自らの望みを口にした。

「あの…天師教さんは名前ないんですか?」

天音は、そこでふと湧いたそんな疑問を凝りもせず、またポロっと口にしてしまった。

「え?」
「だって、お母さんにも名前呼んでもらえないから。」
「…。」

そして皇后は、もう一度食い入るように天音を見つめた。

「天音。行こう。」

そこで初めて口を開いた士導長が、天音を扉の方へと促した。

「…。」

天音は黙って、軽く会釈し、歩を進めた。

パタン

扉が静かに閉まって、その部屋には皇后だけが残された。