「…ずっと私を育ててくれたじいちゃんに、恩返しがしたくて。」
天音が妃になる理由を何の感情も込めず、淡々と答える。
「それだけ?」
「え…?あとは妃になって、私の村をもっと豊かにして…。」
しかし、天音はその後の言葉が続かない。
なぜだろう…。
それを口にすれぼするほど、まるで言葉が自分の中からこぼれ落ちていくようだ。
「本当にそれがあなたの望み?」
皇后の視線が天音に突き刺さる。
「はい…。」
天音は目を伏せて答えた。
皇后の視線を、直視する事など出来るはずがない。
「じゃあなぜ顔を上げないの?」
「…。」
「なぜあなたの瞳に光はないの?」
「…。」
天音は言葉を発する事はなく、ただ奥歯を噛みしめた。
「もういいわ。帰って。」
皇后が冷たくそう言った。
それは、もう話す事はないと言う事だろう。
そして、天音は黙って立ち上がった。
「あの…。」
しかし、最後に天音は絞り出すように何とか声を発した。
「望みがなくちゃ、生きてちゃだめなんですか?」
「…。」
しかし、皇后は訝しげに目を細めただけで、何も答えない。
「すいません。何でもないです。」
「…あなたは生きるのが辛いの?」
天音は、また彼女の怒りを買ってしまったと思い、とっさにあやまった。
するとゆっくり、静かに皇后が口を開いた。

