何の取り柄もない田舎の村娘に、その国の神と呼ばれる男は1秒で恋に落ちる【後編】

コンコン

士導長がその扉をノックした。

「失礼します。」
「どうぞ。」

中からは、天音の聞いた事のない女の人の声が聞こえた。

ガチャ

その扉を士導長が開ける。
そこはまるで談話室のような、そんなに大きくない部屋だった。
この城は本当に広い。天音の知らない部屋なんてまだまだ山ほどあるようだ。

カツカツ
士導長について行き、天音も部屋の奥へと足を進める。

「あなたが天音。」

そこで待ち構えていた女性は、赤に金色の刺繍がほどこされた洋服で着飾っていて、気品が溢れている。
そんな見ず知らずの彼女が、何故だか天音の名前を呼んだ。

「え…。」
「あなたが天音ね。」

その女性がゆっくりと噛みしめるように、もう一度その名を呼んだ。

「え…はい…。」

『誰です!』
『あの!怪しい者じゃないんです!妃候補です。』

天音はもう忘れているようだが、彼女はあの雷の日の事をしっかりと覚えていた。
そう、天音の目の前の女性は、あの日天音と会っていたのだ。

『覚えておいた方がいいですよ。』

そしてあの日のかずさの言葉も…。

「さすがは、預言者ね…。」
「え…?」

しかし、彼女が小さくつぶやいたその言葉は、天音にはよく聞き取れなかった。

「そこに座って。」

女性は、自分の座る真向かいの椅子を指差した。

「…はい。」

天音はこの状況を飲み込めないまま、仕方なく椅子に腰を下ろした。