何の取り柄もない田舎の村娘に、その国の神と呼ばれる男は1秒で恋に落ちる【後編】


「はぁ、はぁ。」

今は、自分の吐息しか聞こえない。
他の音は遮断されたかのように、全く彼の耳には入らない。

何とか城から脱出した月斗は、城の裏手の森から身を隠しながら、町の外へと向かっていた。
まるで、何かから逃げるように。

(どこに行くっていうんだっ…。)

「はぁ…はぁ。」

(俺にはもう、行く場所なんて…。)

『月斗、来年もまた花火大会一緒に見ようね!』

(もうどこにもない…。)


そして、やっとの思いで町の入り口に辿り着いた。
その道のりは、いつもの倍以上の時間がかかったんじゃないかと思うくらい、長く感じた。
足は、おもりがついているかのように重く、疲労感が彼の身体を支配していた。

(ここまで来たら、この町を出て…。)
そんな考えが、ふと月斗の頭をよぎる。




「———どこ…。」