「…そう…ですか。」
力なくうなだれる、隣の男。
柔らかな光に照らされる、俺が描いたあんずを、無言でただ眺めた。
「…こんなこと言ったって、信じてもらえないと思いますが、僕は本当にあんずが好きでした。」
夜中のエレベーターの中で会って、話をするようになったこと。
最初は名前も知らなかったこと。
自分の奥さんと同じ名前だと、驚いたこと。
どうしようもなく、惹かれてしまったこと。
奥さんとの離婚は、既に決まっていたこと。
奥さんと別れて、あんずと一緒になる覚悟を決めた矢先に、奥さんとの間に子どもが出来たとわかったこと。
俺には、なんの関係もないのに、事細かに話す、男。
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