「樹里ちゃん、ほんと付き合い悪ーい」


セナは駄々っ子のように足をばたつかせるが、しかし動じない樹里はきっぱりと言う。



「バーとかならいくらでも付き合ってあげるけど、ホストにお金を使うのだけは嫌よ。無駄使いだとしか思えないし」


樹里はホストに何か恨みでもあるのだろうか。

セナはさらに口を尖らせた。



「自分が稼いだお金だよ? 好きな人のために使うのが幸せなんじゃん」


樹里は話にならないという顔をした。



「カモでしょ、ただの。そんなのおかしいわよ。貢がされてるだけじゃない」

「わかってるよ、そんなの」


わかってる。


それでも、たとえ嘘で塗り固められてるだけだとしても、あの男に愛される幸せに一度でも溺れてしまったら、もう戻れないんだよ。

だから、お金で繋ぐしかないの。



樹里は、唇を噛み締めたセナを困ったような目で見つめ、



「まぁ、セナがそれでいいならいいけどさ。でも、私は付き合わないから」


と、やっぱりはっきり言って、ロッカールームを出て行った。


価値観の相違だとしても、全否定されたみたいで悲しくなる。

セナが消沈していたら、後ろで着替えながら今までのやり取りを傍観していた静が、苦笑いでこちらにやってきた。



「『PRECIOUS』のナオキだっけ? どこがいいんだか、あんな男。私にはまったくわかんないよ」