トシは噛んださくらを笑いながら、横に腰を下ろし、ミネラルウォーターのペットボトルを差し出してくる。



「今日で最後なんだし、別れの挨拶くらいさせてくれてもいいだろ?」


飲み過ぎた酒の所為で、押し殺していたはずの醜い感情が溢れ出してしまいそうだった。

さくらは、たまらずトシから目を逸らす。


トシは、受け取られなかったペットボトルをテーブルの上に置き、



「多分、俺ら、もう会うこともないだろうな」


と、言った。


もう、会うこともない。

改めて言葉にされると、その現実は重すぎた。



誤魔化して続けることだってできたはずなのに、なのにそうしなかったのは自分で、だから悲観すべきではないというのに。



「って、何で泣いてんの?」


意思とは別に、涙が溢れる。

ぐちゃぐちゃになってしまった感情は、もう上手くコントロールできない。


それでもさくらは精一杯で、



「泣いてない」


と、声を震わせた。

トシは困ったような顔で笑う。



「そんなに俺のことが嫌?」


嫌なわけじゃない。

むしろ、こうなってしまった今でもトシを求めている自分がいるのだから。



「好き」


さくらは声を絞った。



「私、ほんとはずっと、トシのことが好きだった」