「すっごい疲れた顔だな。何か睨まれてるみたいで怖いんだけど」
またしても、トシは仕事の終わりにやってきた。
さくらは就職活動に関する資料を放り投げる。
「目ぼしいところのパンフレットを取り寄せてみたけど、読んでるだけで目がチカチカしちゃって」
「へぇ。大変だなぁ、学生さんは」
「他人事みたいに言ってくれちゃって」
「でも、いいじゃん。佐倉は高卒の俺より学歴が上なんだし」
「学歴と就活の苦労は結びつかないと思うけど」
興味がないのか、トシはへらへらと笑うだけ。
さくらは口を尖らせた。
「面接とかもあるしさ、私もそろそろ黒髪に戻さなきゃだし。っていうか、『Rondo』も辞めなきゃね」
なのに、トシは何も言わない。
だから、少し、腹が立った。
「まぁ、どうせトシは、私が辞めたって何とも思わないわよね。担当でもないんだし、困ることもないんだから」
「は? 何怒ってんの?」
「別に」
さくらは悔しさに唇を噛み締め、目を逸らした。
トシはそんなさくらを真っ直ぐに見る。
「何だよ? 言いたいことあるなら言えよ」
言いたいことなど――私がトシに言えることなど、何もない。
そうわかっているからこそ、涙が溢れてくる。
「何で泣くんだよ。わけわかんねぇよ」
トシはひどくめんどくさそうな顔で、肩を落とした。



