ただひたすら心を殺してるうちに、何も感じなくなっていた。

でももうそれでいいと思っていた。


思っていたはずだったのに。



「あみのことがほしくて、ほしくてほしくてどうしようもなくて。あぁ、こんな俺でも人を愛せるんだなって思えたことが嬉しくて」


高槻は、もしかしたら泣いていたのかもしれない。

でも彩も泣いていたから、よくわからなかった。


どうやったって、ふたりはもう離れられない。



「なぁ、俺と逃げないか?」

「え?」


急な言葉に、驚いて顔を上げる。



「黒川も、店も、今までの生活全部捨てて、俺とふたりで逃げないか?」

「全部捨てて、ふたりで……」

「どこか遠い町でさ、イチからやり直そう。仕事なんてどうにかなるし、ふたりでなら食うには困らないよ」


高槻は、夢みたいなことを言う。

全部捨てて、ふたりで、イチからやり直すだなんて。



「あみ。愛してるから、一緒に逃げて、俺と結婚してほしい」